2026年7月27日配信
QGIS・クラウド・地図データ――ミエルネが考える位置情報ビジネスの未来
(株)MIERUNE 桐本 靖規 代表取締役 CEO / Co-Founder
(所属や役職は配信当時の情報となります)
創業から10年にわたる歩みと、「位置から、価値へ。」を掲げるMIERUNEの取り組みについて伺いました。QGISの普及活動や情報発信を行う「QGIS LAB by MIERUNE」、QGISとWebをシームレスにつなぐクラウドサービス「Kumoy(くもい)」の開発背景、そしてオープンソースGISコミュニティへの継続的な貢献について紹介。さらに、位置情報技術をより多くの人が活用できる環境づくりや、自治体・企業で広がるGIS活用の可能性についても深掘り。位置情報業界の現在地と、GISが社会インフラとしてさらに普及していく未来を語っていただきました。
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MIERUNEの創業背景と「位置から、価値へ」の理念
株式会社MIERUNEは、2016年に北海道札幌市で創業した位置情報技術の専門家集団であり、2026年に創業10周年を迎えました。元々は「FOSS4G」というオープンソース(OSS)の位置情報技術コミュニティで出会った3名が設立した会社であり、ビジネス先行ではなくコミュニティ文化が社風の根底にあるのが特徴です。同社は「位置から、価値へ」というスローガンを掲げ、現在は30名を超える規模に成長していますが、社内にいわゆる「営業職」を置かない独自の運営を続けています。技術ブログでの発信やコミュニティ活動そのものが実質的な営業の役割を果たしており、技術への深い信頼を基盤とした集客を行っています。共同創業者兼CEOの桐本氏は、20年以上のキャリアを持つGISの専門家であり、創業時は開発からインフラ整備、経理まで全てを一人で担当していました。会社が大きくなるにつれ役割を変え、現在は経営全般を見守りつつ、AWSヒーローとして世界的な評価を受けるなど、個人としてもOSSへの貢献を続けています。
ソリューションとプロダクトを両立させる独自の事業戦略
MIERUNEの事業は大きく分けて2つの軸で展開されており、1つ目は顧客の個別の課題を専門知識とドメイン知識で解決する「ソリューション事業」です。長年の受託開発で培った高度な知見を活かし、複雑な位置情報の課題に対して最適なシステムを構築・提供しています。2つ目は自社開発のツールを提供する「プロダクト事業」であり、近年は桐本氏がCEOに就任して以降、このプロダクト側の比重をさらに拡大させています。代表的なものにはクラウドサービス「Kumoy」のほか、背景地図を配信する「MIERUNE地図タイル」や、歴史地図を扱う「歴地図」などがあります。これまではオーダーメイドのソリューションが中心でしたが、共通の課題をプロダクト化して汎用的に提供することで、より広範なユーザーへ価値を届けるポートフォリオを構築しています。この二輪の戦略により、ビジネスの成長とオープンソースへの還元を高い次元で両立させることを目指しています。
世界標準GIS「QGIS」の民主化と持続可能な開発エコシステム
同社が注力している「QGIS」は、デスクトップ型のオープンソースGISとして世界的なスタンダードとなっており、商用ソフトウェアに匹敵する高度な機能を備えています。かつては高価なソフトが主流でしたが、QGISの台頭によって「GISの民主化」が起こり、誰もが地図分析を行える環境が整いました。QGISは世界中のボランティアによって開発されていますが、MIERUNEのような企業がスポンサーとなり、得られた収益を開発者に還元することで持続可能な開発体制を支えています。同社は単なる利用者ではなく、エコシステムを維持するための重要なパートナーとしての役割を担っています。日本国内のみならず、QGISのユーザー層は世界中に膨大に存在しており、このプラットフォームに関連するサービスを展開することは、最初から世界市場をターゲットにできることを意味します。MIERUNEはこの広大なユーザー基盤に対し、さらなる利便性を提供することに商機を見出しています。
クラウドサービス「Kumoy」が変えるデータ共有の常識
QGISユーザーが長年抱えていた「データの共有と管理が煩雑である」という課題を解決するために、クラウドサービス「Kumoy」が開発されました。QGISは基本的にローカル環境で動作するソフトであるため、データの共有にはZipファイルでの送受信といった手間が伴っていました。Kumoyを利用することで、QGIS上のデータをボタン一つでクラウドへアップロードし、ブラウザ上で簡単に他者と共有することが可能になります。これにより、専門知識のないクライアントやチームメンバーとも、最新の地図情報をスムーズに共有できるワークフローが実現します。最大の強みは、QGIS上で設定した複雑なスタイルやデザイン表現を、そのままブラウザ上でも忠実に再現できる高い再現性にあります。これまで困難だった「作り込んだ地図のデザインを保ったままウェブ公開する」というプロセスを劇的に簡略化しました。
世界進出を見据えた「データホスティング」の戦略的価値
「Kumoy」は当初からグローバル展開を強く意識して設計されており、日本国内での実績を足がかりに世界中のQGISユーザーへ提供することを目標としています。海外での契約や法的ルールへの対応を現在進めており、2024年から2025年にかけて本格的な世界進出を加速させる計画です。技術的な本質としては、単なる可視化ツールではなく、位置情報を伴う「データのホスティング(保管場所)」としての機能を重視しています。これはAI時代において、信頼できる一次データをどこに保持し活用するかという点で、極めて高い資産価値を持つと考えているからです。特定の産業に特化しにくい位置情報技術の「ノンジャンル」な性質を逆手に取り、あらゆる分野のユーザーを受け入れつつ、エンタープライズ向けのカスタマイズ要望にも柔軟に対応できるSaaSモデルを構築しています。
生成AI時代のエンジニア教育と技術への向き合い方
急速に進化する生成AIに対し、MIERUNEでは社内にAIタスクフォースを設置し、事務作業や勤怠管理などの社内業務の自動化においては積極的に導入を進めています。これにより、これまで煩雑だった雑務が大幅に軽減され、本業に集中できる環境が整いつつあります。一方で、ソフトウェア開発の現場においては、AIの回答を盲信して論理的思考を停止させてしまうことに対し、教育の観点から慎重な姿勢をとっています。特に経験の浅いエンジニアがAIに頼り切りになり、なぜそのコードが生成されたのかというロジックを説明できなくなることを懸念しています。人間がAIの回答プロセスを理解し、主体的に選択できる能力を養うことが、現時点での技術者としての誠実な向き合い方であると考えています。AIが完全に地図を読み解ける時代を見据えつつ、今はその過渡期における最適解を探っています。
社会インフラとしての位置情報技術と今後の展望
創業10周年を一つの通過点として、MIERUNEは位置情報技術が社会のあらゆる場面で「意識されずに使われる」状態を目指しています。誰もが位置情報技術を当たり前のインフラとして使いこなすことで、より多くの社会課題を迅速に解決できる世界を思い描いています。ソリューション事業で培った現場の具体的な知見をプロダクト開発へフィードバックし続けることで、次世代の便利なツールを次々と生み出すサイクルを強化していきます。これにより、高度な技術を誰もが手軽に利用できる環境を整備します。札幌という拠点にこだわりつつ、移住支援やリモートワークを組み合わせた積極的な採用活動を行い、多様なバックグラウンドを持つ仲間を集めています。コミュニティとビジネスの双方を盛り上げる場を提供し続けることで、業界全体のボトムアップに貢献していく構えです。
まとめ
株式会社MIERUNEの10年の歩みは、オープンソースコミュニティへの純粋な貢献と、それを強固なビジネスモデルへと昇華させる挑戦の歴史です。「位置から、価値へ」という言葉通り、単なる座標データに意味を与え、QGISとクラウドを繋ぐ「Kumoy」のような革新的なプロダクトを通じて、地理情報の可能性を広げ続けています。
桐本CEOのもと、ソリューションとプロダクトの両輪を回しながら、データのホスティングという確固たる基盤を築き、日本から世界へとその価値を発信しようとしています。AIとの共生やグローバル展開など、次なる10年に向けた同社の進化は、位置情報技術が社会の隅々まで行き渡り、私たちの生活をより豊かで便利なものに変えていく重要なエンジンとなるでしょう。
