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2026年4月27日配信

AI時代に“使っていい技術“は誰が決めるのか? 大阪大学・岸本先生と考えるELSIと位置情報の未来

登壇:岸本 充生教授 大阪大学 社会技術共創研究センター センター長

(所属や役職は配信当時の情報となります)

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AIや位置情報データの活用が広がる時代に欠かせない「ELSI(倫理的・法的・社会的課題)」をテーマに語ります。「便利だから進める、危ないから止める」という二択ではなく、社会としてどこまでのリスクを受け入れるのか。LBMA Japan位置情報データ利活用ガイドライン策定の裏側から、生成AI時代に人文社会科学が果たす役割、そして技術の社会実装に必要な視点まで、わかりやすく深掘りして頂きました。

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大阪大学ELSIセンターと岸本 充生教授の取り組み

 

大阪大学の社会技術共創研究センター、通称「ELSIセンター」のセンター長を務める岸本 充生教授は、リスク学を専門としながら、先端技術の社会実装に伴う課題を研究しています。岸本教授は、AIエンジニアやデータサイエンティスト、スーパーコンピューターの専門家が集まるD3センター(データ推進活用・デジタル変革教育研究センター)の社会技術研究部門長も兼任しており、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する現場に近い立場で人文社会科学系の知見を提供しています。

LBMA Japan(一般社団法人ロケーションビジネスジャパン)と岸本教授の縁は深く、2019年のセンター発足直前まで遡ります。当時、LBMA Japanが日本初となる「位置情報データ活用に関するガイドライン」の初版を策定する際、岸本教授はELSIの観点からレビューを行い、実効性のあるガイドライン作りに尽力しました。

 

 

ELSI(倫理的・法的・社会的課題)の定義とその起源

 

ELSIとは、「Ethical, Legal and Social Issues」の頭文字を取ったもので、日本語では「倫理的・法的・社会的課題」と訳されます。この概念は、1990年にアメリカでヒトゲノムを解読するプロジェクトが始動した際、研究開発プログラムの一部として誕生しました。

当時のコンセプトは、技術が完成してから問題を考えるのではなく、研究開発のスタート段階から、将来その技術が成功した際にどのような社会的影響が生じるかを予測し、あらかじめ備えておくという極めて先進的なものでした。特に、予測されるネガティブな影響を洗い出し、対策を講じることで、技術の健全な社会実装を目指すことが目的です。この「転ばぬ先の杖」としての考え方は、現代のAIやデータサイエンスの領域においても、改めて重要性が高まっています,。

 

 

位置情報データとELSIの接点

 

位置情報データの利活用を推進する上で、ELSIの概念は極めて重要な役割を果たします。LBMA Japanがガイドラインを策定していた当時は、個人情報保護法において位置情報の定義が明確に確立される前段階でした。

事業者の間では、差別や区別を助長するような使い方の禁止や、個人の行動・思考に不適切な影響を与える活用の制限について漠然とした議論が行われていましたが、それをどう定義し、制限の範囲をどこに設定すべきかという課題がありました。岸本教授は、ヒトゲノム解析が差別を生む懸念(保険加入や就職での不利益など)に対処してきた歴史を例に、位置情報データも同様に、個人のプライバシーや権利を守るための先回りの議論が必要であることを説きました,。技術が社会実装された際におかしなことが起こらないよう、あらかじめ手を打ち、必要に応じて技術開発側にフィードバックを行うことがELSIの本来の使命です。

 

 

人文社会科学が創出する「社会技術」と文系の産学連携

 

岸本教授は、自身の活動を通じて「社会技術」という概念を提唱しています。理系の研究者が「科学技術」を開発するのであれば、人文社会科学系の研究者は、それを社会に受け入れられる形に整える「社会技術」を開発するという考え方です,。これには、倫理原則の策定やアセスメント手法の構築が含まれます。

ELSIセンター発足後、10社以上の企業との共同研究が進んでおり、これは従来、医学や工学が中心であった産学連携において、人文社会科学系が主導する極めて稀なケースです。不確実な時代において、哲学や倫理、法学といった知見がビジネスの「羅針盤」として求められている証左と言えます。企業経営やAI開発の現場において、哲学者などの専門家を登用する動きは世界的に広がっていますが、その知見をどう実務に落とし込むかというノウハウの蓄積が、今まさに進められています。

 

 

リスク学から見た新技術の受容と合意形成

 

岸本教授の専門である「リスク学」の根本には、「リスクはゼロにならない」という前提があります。社会は、自動車の運転や微量の有害物質を含む食品の摂取など、ある程度のリスクを許容しながらその便益を享受しています。これはAIや位置情報データについても同様です。

重要なのは、客観的に「正しいリスク」が唯一無二の正解として存在するのではなく、事業者が「どのような対策を講じ、どの程度までリスクを低減したか」を誠実に説明し、利用者がそれを信頼して受け入れるかどうかというプロセスにあります。特にAIのような日進月歩の技術においては、客観的なリスク評価は困難を極めますが、主観を含みつつも最大限の透明性を持って説明責任を果たすことが、社会的な信用を築く鍵となります。

 

 

歴史的視点から見る技術への反応とパラダイムシフト

 

新技術に対する社会の拒絶反応や過度な懸念は、歴史上繰り返されてきた現象です。例えば、かつてラジオが登場した際には「子供たちが宿題をしなくなる」と騒がれ、インターネットや漫画、スマートフォンの普及時にも同様の論争が起こりました。

歴史を遡れば、新しい媒体やテクノロジーが登場するたびに人類は似たようなリアクションを取ってきました。過去の事例を分析することで、現在のAIやデータ利活用に対する懸念が、一時的な混乱なのか、あるいは真に警鐘を鳴らすべき事態なのかを見極めるための資唆が得られます,。歴史学的なアプローチは、リスクの相場感を把握し、過度な騒動を鎮めるための客観的な視点を提供します。

 

 

今後の展望と社会技術の体系化

 

岸本教授率いるELSIセンターは、今後、人文社会科学の多様な知見をさらに理論的・体系的に打ち出していくことを目指しています。経済学、法学、倫理学といった専門分野の縦割りを排し、現実のビジネス課題や社会課題に対して統合的な解決策を提示することが求められています。

人文社会科学は実学として役に立たないという批判に抗い、新しい技術の社会実装を支える不可欠な学問としてのポテンシャルを証明し続けることが、今後の大きな目標です。万博などの大規模なイベントやプロジェクトを通じて得られた知見(レガシー)を継承し、それを具体的な仕事や社会構造の中にエッセンスとして組み込んでいく活動も継続されます。

 

 

まとめ

 

本対談を通じて、先端技術の社会実装には「科学技術」と対になる「社会技術」の存在が不可欠であることが示されました。大阪大学の岸本 充生教授が提唱するELSIの観点は、単なるブレーキ役ではなく、技術が社会に真に受け入れられるための「信頼の基盤」を構築するプロセスそのものです。

リスクはゼロにならないという現実を直視し、事業者が誠実にリスクを評価・説明すること。そして、歴史的な視点を持ちながら、現代のテクノロジーがもたらす変化を冷静に見極めること。位置情報データをはじめとするパーソナルデータの利活用において、これらのELSI的視点をビジネスモデルの初期段階から組み込むことは、企業の持続可能な成長と社会的責任を両立させるための最良の戦略となります。人文社会科学が持つ豊かな知見を実務に融合させる試みは、これからも日本のデータビジネスをより高次なステージへと導いていくでしょう。

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