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2026年4月13日配信


高精度測位とAIで現場課題を解く―位置情報の次の価値

登壇:那須俊宗 マルティスープ(株) 代表取締役

(所属や役職は配信当時の情報となります)

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高精度測位の進化と現場活用の最前線について伺いました。屋外ではRTK級、屋内でもサブメートル級の測位がより現実的な価格で導入可能になり、製造・物流・建設・インフラ分野で新たな課題解決が進んでいるといいます。人手不足や働き方改革が進む中、位置情報は単なる“見える化“ではなく、業務改善や安全性向上、効率化に直結する存在へ。さらにAIとの組み合わせによって、位置情報の価値がどのように広がっていくのか、今後の展望も含めて語っていただきました。

 

2024年の那須さんエピソードはこちら:https://www.lbmajapan.com/location-weekly-japan-season2-18/multisoup

 

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位置情報技術による現場価値の最大化とマルティスープの使命

マルティ株式会社は、位置空間情報技術を活用して現場の価値を最大化することをミッションに掲げ、屋外および屋内の双方における位置情報技術を産業現場に提供しています。同社が展開するサービス「iField(アイフィールド)」は、製造、物流、建設、インフラといった幅広い産業分野で導入されており、現場の多様な課題をソリューションによって解決へと導いています。那須氏は、この1年で屋外・屋内の両方において高精度測位への標準対応を完了させたと語ります。これまでは技術的に難しかったりコスト面で見合わなかったりした課題に対しても、高精度な実装が可能になったことで、次なるステップとして「高精度だからこそ提供できる付加価値」を追求する段階に入っています。

高精度測位の民主化とサブメーター級の実

 

測位精度の向上は目覚ましく、屋外ではスマートフォンやGNSSを用いた従来の数メートルから数十メートルの誤差が出る環境から、RTK(リアルタイムキネマティック)技術の活用により、小型のモバイル端末でも1メートル以下、環境が良ければ数十センチメートル単位の精度が提供可能になっています。また、屋内測位においても大きな変化が起きています。かつては高精度な屋内測位には多額の費用がかかることが一般的で導入を断念する企業も少なくありませんでしたが、現在は技術の標準化が進んでいます。那須氏はこれを「ジェネリック」と表現し、2019年に標準化されたBluetooth 5.1のAOA(Angle of Arrival)技術などを用いた安価なデバイスが登場したことで、サブメーター級の屋内測位が非常にリーズナブルに実現できるようになったと指摘しています。これにより、これまでコストを理由に諦めていた層に対しても、新たな提案が可能になっています。

労働力不足の深刻化とデジタルによる課題解決

社会全体で深刻化する人手不足、いわゆる「2024年問題」を含めた労働リソースの不足は、現場において待ったなしの状況です。働き方改革の推進もあり、リソース不足はあらゆる場面で顕在化しています。マルティスープでは、位置情報だけでなく、ロボティクスによる自動化やカメラによる作業認識といった先端技術とも連携しながら、これらの課題解決に挑んでいます。那須氏によれば、先進的な企業ではPOC(概念実証)の段階を超え、本格導入を通じて具体的な成果を出し始めていると言います。例えば製造現場では、高精度な測位データを用いることで、これまで不透明だった「誰が、どの設備に、どれだけの時間をかけ、どのようなコストが発生しているか」を正確に把握できるようになります。人や物の動きを高い精度かつ適正な価格で取得できるようになったことが、現場改善の大きなポイントとなっています。

設備総合効率の向上とROIの可視化

高精度な位置データの取得は、単なる計測に留まらず、投資対効果(ROI)の算出に直結します。製造業においては、設備の稼働効率を高める「設備総合効率」の最適化と、作業者の付加価値の高い動きを促進する「作業率の向上」という二つの側面が重要です。これらをミックスしてアプローチできる技術が整ってきたことで、現場のコスト最適化に向けた具体的な道筋が描けるようになっています。また、那須氏は製造業で培われた「インダストリアル・エンジニアリング(IE)」、すなわち生産性を高めるために改善を繰り返すという考え方は、あらゆる産業に通じると考えています。実際に、インフラ管理や医療、さらにはスポーツ分野においても、デジタル技術を用いて現状を可視化し、改善を積み重ねることで未来を良くしていこうとする動きが広がっています。

位置情報とAIの融合がもたらす「文脈」の生成

今後の展望として欠かせないのがAIとの向き合い方です。那須氏は、位置情報そのものは非常に無機質なデータであり、座標だけでは「何が起きているか」というコンテキスト(文脈)を作り出しにくいという性質を指摘します。位置情報を単なる計測ツールで終わらせないためには、AIを介在させてデータの価値を高めることが不可欠です。例えば、取得した膨大なデータから特定の作業の意味を自動認識したり、過去の成功事例と照らし合わせて次の一手の成功確率を算出したりするような枠組みが期待されています。那須氏は「お客様は位置情報そのものが欲しいわけではなく、そこから得られる成果、つまり効率性や安全性の向上を求めている」と強調します。近年注目されている「ジオAI(GeoAI)」や「フィジカルAI」といった概念が拡大する中で、位置情報サービスベンダーとしては、まずは質の高いデータをしっかりと取得・提供し、それをAIが有効活用できる形に整えていくことが重要であると考えています。

現場を助けるためのデータ活用と今後の展望

那須氏は、位置情報技術に関わって25年以上のキャリアを持ちながら、今が最も面白い時代であると語ります。かつてのように「位置情報の見える化」だけを目指すのではなく、現場の業務そのものを見える化し、位置情報が課題解決の強力な一助となる時代が到来しています。今後3年ほどの展望として、那須氏は「位置情報」という言葉を意識せずに、データが当たり前のように活用されている状態を目指したいとしています。また、データの取得が現場の方々から「監視」として警戒されるのではなく、「自分たちを助けてくれるためのサービス」として信頼され、定着していくことが重要です。産業現場のデジタルトランスフォーメーションを支える基盤として、位置情報技術はより身近で欠かせない存在へと進化し続けています。

まとめ

 

今回の対談を通じて、位置情報技術は高精度化と低価格化という二つの側面で劇的な進化を遂げていることが明らかになりました。屋外でのRTK活用や屋内でのBluetooth AOA技術の普及により、センチメートルからサブメーター級の測位が現実的なコストで導入可能になり、製造業をはじめとする様々な現場で具体的なROIの算出に寄与しています。また、位置情報を単なる点データとして扱うのではなく、AIと組み合わせることで業務の文脈を理解し、人手不足の解消や生産性の向上に結びつける取り組みが加速しています。那須氏が強調するように、技術の目的はあくまでも現場の課題解決にあります。位置情報が「監視」ではなく「支援」のツールとして現場に浸透し、IEの考え方に基づいた継続的な改善がデジタルを通じて行われることで、日本の産業界における新たな価値創造が期待されます。LBMA Japanとしても、このような技術の社会実装をさらに広めていく活動を続けてまいります。

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