top of page

2026年6月15日配信

位置情報は本当に信頼できるのか?スプーフィングと地理空間データの信頼性
 

藤田 智明 LocationMind(株)取締役COO

(所属や役職は配信当時の情報となります)

​​

LocationMindの藤田氏を迎え、位置情報データの「信頼性」をテーマに議論します。GNSSスプーフィングやジャミングによる位置情報の改ざんリスク、道路課金・物流・CO2排出量算定など民間領域で生まれる改ざんインセンティブ、さらにAI・スマートシティ時代に求められる地理空間データの確からしさとトレーサビリティについて伺います。

====

東大発スタートアップの挑戦とアカデミックな背景

 

LocationMind株式会社は、東京大学大学院工学系研究科の柴崎研究室を母体として2019年に創業されたスタートアップであり、位置情報ビジネスの最前線でイノベーションを起こし続けています。特筆すべきはその強固な組織体制とアカデミックなバックグラウンドです。現在、同社は業務委託を含めて100名を超える規模に成長していますが、その中には今なお数十名に及ぶ柴崎研究室の出身者が在籍しています。大学発の最先端の研究成果や高度な数理アルゴリズムをそのままビジネスシーンへ実装できる環境が整っており、他の一般的な位置情報関連企業とは一線を画す技術的な深みと学術的な専門性を兼ね備えている点が同社の最大の強みと言えます。​


 

「位置情報のセキュリティ」と改ざん(スプーフィング)の脅威

 

同社が取り組むテーマの一つが、「位置情報のセキュリティ」という新たな領域です。これは従来の個人情報保護やプライバシー担保とは異なり、「位置情報データそのものの確からしさ(真正性)」を検証するアプローチを指します。現代社会は衛星からのGNSS信号(GPSなど)を前提に成り立っていますが、これらを意図的に改ざんした偽の信号で受信機を騙す「スプーフィング(位置偽装)」の脅威が高まっています。位置情報の経済的価値が高まる中、同社はデータの真偽を判定する次世代のロケーションセキュリティを切り拓いています。
 

 

グローバルでの現状と安全保障・民間インフラへの波及

 

位置情報のスプーフィングやジャミング(電波妨害)は、すでにグローバル規模で顕在化している深刻な課題です。特に2022年のロシア・ウクライナ情勢以降、防衛目的や戦時下の影響で世界的に顕在化し始めました。
スプーフィングは端末側が騙されていることに気づきにくく、画面上では全く異なる場所にいるように誤認させます。また、エリア一帯に無差別な偽信号が発信されるため、 船舶の航路喪失や航空機の飛行停止といった民間インフラへの実害も出始めています。日本国内でも潜在的なリスクとして、位置情報の脆弱性対策は急務となっています。


 

民間領域における改ざんのインセンティブと経済的リスク

位置情報が金銭的な価値やコスト算定に直結する社会システムへ移行しつつあることから、民間ビジネス領域でもデータを改ざんする経済的な動機が生まれ始めています。

具体的には、東南アジア等で導入が進む「GPSベースの道路課金システム」では、「走行していないことにして課金を逃れる」不正や、物流業界の共同配送におけるCO2排出量の算定・案分に位置情報が使われるようになると、排出量を低く見せるための改ざんリスクが懸念されます。位置情報が企業の評価やお金に直結する時代だからこそ、不正を防ぐ高度な防壁が必要不可欠となります。

 

「ハードとソフトの両輪」のソリューション

この偽装リスクに対し、ロケーションマインド社はハードウェアとソフトウェアの双方向からアプローチする強力な「両輪のソリューション」を提供しています。

第一の柱は、人工衛星からの信号そのものの真偽を受信機側で検証するハード寄りの「信号認証」技術です。同社はこれを内蔵したデータ収集デバイスも自社開発しています。第二の柱はソフト寄りの技術で、過去の移動履歴の分析に加え、カメラの映像データやRFIDの検知記録など「別のデータソース」と掛け合わせてクロスチェックを行い、データの整合性を事後的に立証します。
 

 

自動運転・スマートシティ推進における信頼性基盤の必要性

 

今後、本格的な社会実装が期待される自動運転やスマートシティの領域において、位置情報の信頼性担保はプロジェクトの成否を分ける最重要課題です。自動運転車両の制御や都市のモビリティ最適化は、すべて正確な地理空間データとの連携を前提としているためです。

悪意ある第三者によるスプーフィング攻撃は、車両の誤認識を招き、重大な事故に繋がる危険性があります。徐々に騙していく高度な位置偽装は見過ごされやすいため、AI(GeoAI)を活用した次世代インフラを安全に運用するには、偽装を未然に防ぐセキュアな設計を業界全体の共通仕様にしていく必要があります。

地理空間データの調達と真正性担保への今後のアプローチ

 

同社が目指す未来は、GPS単体の保護にとどまらず、スマートフォン、車両、船舶、航空機の位置情報、さらに衛星画像や都市のセンサー映像など、すべての「座標に紐づく地理空間データ」を安全に統合・シミュレーションできる世界です。

しかし、不正確なデータが混入すれば分析価値は失われます。この課題に対し同社は、データを保有・売買するデータホルダーや市場全体に向けて、「真正性を証明できなければビジネスで信頼されない」という共通認識を醸成し、データエコシステムの健全な発展を目指すアプローチを続けています。
 


まとめ

 

今回の対談では、道路課金、CO2算出、自動運転など、国家レベルのインフラを支える位置情報の信頼性と、スプーフィングの脅威に対抗する技術の重要性が浮き彫りとなりました。この「データの確からしさを保証できる技術」は、自動運転やデータ駆動型の都市運営が加速する未来において、社会の必須インフラ(標準規格)へと進化する可能性を秘めています。アカデミックな研究成果と民間ビジネスを直結させ、データの調達から高度な空間シミュレーションまでを一貫して提示できる同社の取り組みは、今後の地理空間データ市場に新たな選択肢をもたらすものです。こうしたアプローチがモデルケースとなり、位置情報全体の信頼性を高める技術や市場全体のボトムアップがさらに加速していくことが期待されます。 

bottom of page