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2026年2月9日配信

Smart Building Integrator

 

登壇:
岩井光久 株式会社WHERE 代表取締役

青木貴弘 株式会社WHERE 企画統括本部長 兼 IoT事業本部長

(所属や役職は配信当時の情報となります)

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本エピソードでは、2013年創業当初の自治体向け防災・観光アプリから、GPSが届かない地下街などでの屋内測位へ、さらにビーコン同士が連携するネットワーク型デバイスへと事業を転換してきた歩みを紹介します。

現在は「スマートビルディングインテグレーター」を掲げ、位置情報を主役ではなくセンシング情報の一つとして活用。空調・照明・認証など多様な設備データを集約し、必要な相手へAPIで届ける“ハブ“として、脱炭素や快適性、オーナー収益向上に貢献する「マルチビルディングコネクト」構想と2030年に向けた展望を語ります。

 

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株式会社WHEREの歩みと屋内位置情報への進出

 

株式会社WHEREは2013年に設立され、創業13年目を迎える企業です。創業初期は、GPSや準天頂衛星を活用した位置特定技術を軸に、自治体向けに災害時の避難誘導サービスを提供していました。地震速報や台風などの緊急時に、市民をスマートフォンの位置情報をもとに避難所へ導く仕組みを構築し、多くの自治体に導入された実績を持ちます。
しかし、災害時のみに利用されるアプリでは日常的な接点が限られることから、観光や街の行事など日常のコンテンツ拡充にも着手しました。その過程で直面したのが、GPS電波が届かない地下街や屋内での位置特定という課題です。東京駅や新宿駅のような巨大な地下空間で人々を誘導・案内するためには、衛星に代わる技術が必要でした。
2016年、同社は大きな転換点を迎えます。ビーコンを活用した屋内位置情報サービスへの本格的なシフトです。当時のビーコンは電池駆動による保守性の低さが課題でしたが、同社はビーコン同士が通信し合うメッシュネットワーク技術を開発し、保守性能を劇的に向上させることに成功しました。これを機に、オフィスや工場、建設現場といった「建物の中」で人やモノの動きを見える化し、現場の利便性を高めるビジネスへと大きく舵を切ったのです。

新たなコンセプト「スマートビルディング・インテグレーター」

 

現在、株式会社WHEREは第2ステージへと突入しています。これまでの「位置情報の可視化」という枠組みを超え、同社が新たに掲げたコンセプトが「スマートビルディング・インテグレーター」です。
スマートビルディングとは、都内を中心に進む大規模再開発などで求められる、快適性、安全性、そして環境負荷の低減を兼ね備えた高度な建物を指します。岩井氏は、スマートビルディングを「ビルオーナー、管理者、利用者、そして立ち寄る人々まで、あらゆるターゲットがスムーズかつ安全に過ごせる空間」と定義しています。
同社の役割は、ビルそのものやビルOSを作ることではありません。ビル内に存在する膨大なデータを収集・集約し、必要な場所へ、必要な形で届ける「コネクター(接続役)」としての役割を担うことにあります。建物そのものを建てるゼネコンやビル管理会社と連携し、データの利活用を促進するインテグレーターとして、2030年に向けた社会実装を目指しています。

位置情報を「1つのセンシング情報」として捉え直す

スマートビルディングを実現する上で、同社は位置情報の捉え方を大きくアップデートしています。かつては位置情報そのものがサービスの主役でしたが、現在は位置情報を「建物の状況を把握するための1つのセンシング情報」として扱っています。
例えば、オフィス内で「誰がどこにいるか」という位置情報は、単なる所在確認だけでなく、空調や照明の自動制御に活用されます。会議室の予約情報と連動し、人が集まる前から空調を効かせる、あるいは人がいないエリアの照明を自動で消灯するといった制御が可能になります。

このように、位置情報を他のセンサーデータ(温度、湿度、二酸化炭素濃度など)や認証情報と組み合わせることで、建物の運用効率を最大化させることができます。同社が展開する「X Office(エックスオフィス)」や、認証情報を活用した「X Keeper(エックスキーパー)」といった商材は、まさにこのコンセプトを具現化したものです。位置情報を「手段」として位置づけ、建物の付加価値を高めるためのデータソースとして活用する視点が、同社の強みとなっています。

マルチビルディング・コネクトによるデータのハブ機能

 

同社が提唱するもう一つの重要な概念が「マルチビルディング・コネクト」です。これまではビーコンを用いた測位技術(X ビーコンプラットフォーム)をコアとしてきましたが、これに認証情報やセキュリティ情報、各種センサー情報を統合したプラットフォームへと進化させています。
現在のビル開発では、照明メーカーや空調メーカーがそれぞれ独自のセンサーを設置し、各々の設備を制御する「垂直統合型」のシステムが主流です。しかし、これではデータの共有が進まず、ビル全体としての最適化が困難です。株式会社WHEREのプラットフォームは、これらの入り組んだデータを一箇所に集約し、APIを通じて外部のアプリケーションやビルOSへ提供する「ハブ」としての機能を果たします。
この「ハブ」が存在することで、ビルオーナーは特定のメーカーに縛られることなく、多様なベンダーのアプリケーションを自社のビルに導入できるようになります。また、同社が収集した高精度なデータをビルOSに逆流させることで、より高度なエネルギーマネジメントや施設運営が可能になります。

ビル価値の向上と脱炭素社会への貢献

 

スマートビルディング化の最終的なゴールは、ビルオーナーの収益向上と、利用者にとっての価値創出の両立にあります。
オーナーにとっては、入居者(テナント)がより儲かる、あるいはより快適に働ける環境を提供することで、建物の稼働率を高め、資産価値を維持・向上させることができます。例えば、顔認証でのスムーズな入退館や、混雑状況に応じた最適なオフィス利用、効率的な会議室運用などは、テナント企業にとって大きな魅力となります。
また、世界的な潮流である「脱炭素(デカルボナイズ)」への対応も欠かせません。同社のソリューションを用いれば、人流データに基づいた細かな空調・照明制御が可能となり、無駄なエネルギー消費を大幅に削減できます。将来的には、テナントごとの二酸化炭素(CO2)排出量をデイリーで算出し、可視化する仕組みの構築も視野に入れています。こうしたデータに基づく環境貢献は、これからのビル経営において必須の要素となっていくでしょう。

まとめ

 

株式会社WHEREは、創業以来培ってきた位置情報技術を基盤としながら、その領域を「建物全体のスマート化」へと大きく広げています。位置情報を単なる「点」の情報としてではなく、建物全体の最適化を司る「センシング情報」の一つとして捉え直すことで、新たな価値を創出しています。
同社が提唱する「スマートビルディング・インテグレーター」としての役割は、バラバラに存在するビル内のデータを集約し、有効活用するための「ハブ」になることです。これにより、ビルオーナーには資産価値の向上を、利用者にはこれまでにない快適性と利便性を提供することが可能になります。
今後はオフィスビルのみならず、アリーナ、スタジアム、工場、病院、倉庫など、あらゆる施設における「マルチビルディング・コネクト」の実現を目指していくとしています。2030年に向けた新たな中期経営計画のもと、位置情報の枠を超えたインテグレーターとして、スマート社会のインフラを支える同社の活動に、今後も大きな期待が寄せられます。

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