2025年12月22日配信
第3回位置情報アワード2025最優秀賞:3次元人流ビッグデータが変える都市の未来
登壇者:
近 義起 MetCom株式会社 代表取締役社長 CEO
新村 生 株式会社ブログウォッチャー 代表取締役
(所属や役職は配信当時の情報となります)
LBMA Japan が毎年開催する、その年の位置情報データを活用し社会にインパクトを与えた事例を表彰する「位置情報アワード」。
加盟企業間の投票により決定する最優秀賞を今年はMetComとブログウォッチャー社の共創事案「三次元人流ビッグデータで「高さ情報による階層分離」技術を実用化」が受賞しました。
その概要について、両社の代表取締役にお越しいただき、今後の展望について語っていただきました。
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従来の2次元データから「Z軸」を含む3次元の解析へ
これまで位置情報活用における主流は、緯度・経度を用いた平面的な「2次元(XY軸)」のデータでした。しかし、高層ビルや地下街が密集する日本の都市部においては、ユーザーが「ビルの何階に滞在しているのか」を正確に把握することが困難であるという大きな課題がありました。
MetCom株式会社が提供する技術は、独自の気圧センサーネットワークと地上波の測位システムを組み合わせることで、GPSの弱点であった垂直方向の精度を劇的に向上させます。
これにより、誤差数メートル単位での「階層分離」が可能となりました。この高度な垂直測位技術と、株式会社ブログウォッチャーが保有する膨大な人流ビッグデータを掛け合わせることで、日本初となる「3次元人流データ」の実用化が実現しました。
幅広い産業でのユースケースと市場ニーズ
3次元人流データは、多角的なビジネスシーンでの活用が期待されています。
・小売・商業施設: 商業ビルの各フロアにおける滞在状況を可視化することで、テナントごとの集客力分析や、階層別の賃料設定の最適化に寄与します。空中階や地下階を含む複雑な店舗レイアウトの有効性を検証する上で、極めて強力な指標となります。
・防災・安全管理: 従来の避難シミュレーションは、避難者が1階にいる前提で行われることが一般的でした。しかし、3次元データを活用することで、高層階からの避難にかかる時間や経路をより正確に把握し、災害時の「逃げ遅れ」防止に向けた精緻な計画策定が可能になります。
・観光・都市計画: ペデストリアンデッキや地下街など、立体的に交差する動線を分離して分析することで、インバウンド観光客の回遊性向上や、快適な街づくりに貢献します。
・通信インフラ: 5Gをはじめとする電波の品質調査において、ビル内部の階層ごとの通信状況を把握し、エリア設計の最適化に活用するニーズも高まっています。
安心・安全な位置情報インフラの構築に向けて
今回のプロジェクトが評価された背景には、技術的な新規性だけでなく、社会インフラとしての「堅牢性」への配慮があります。GPS(GNSS)は、ジャミング(電波妨害)やなりすましに対して脆弱な側面があることが近年改めて浮き彫りとなっています。
MetComが推進する地上波測位技術は、暗号化された強力な信号を地上から発信する仕組みであり、GPSのバックアップとしても非常に有効です。米国ではすでに重要インフラにおけるGPSのバックアップ確保が推奨されており、日本においてもこの「安心・安全な位置情報」の普及が、スマートシティ実現の鍵となるでしょう。
まとめ
今回の受賞は、単なる技術的な進歩にとどまらず、私たちの社会が「2次元から3次元へ」と解析の次元を引き上げた歴史的な転換点であると言えます。MetComの高度な垂直測位技術とブログウォッチャーの膨大なデータ解析能力が融合したことで、都市の「高さ」という未知の領域が可視化されました。
これにより、小売業におけるフロア単位のマーケティングから、高層ビルのリアルな避難シミュレーションまで、これまで推測の域を出なかった課題に対して確かなデータで答えを出せるようになります。さらに、この技術はGPSの脆弱性を補完する次世代のセーフティネットとしての役割も担っています。
今後は、この3次元測位技術がスマートフォンの標準的なインフラとして普及していくことで、都市生活の利便性と安全性がより高い次元で両立される社会が実現していくことが期待されます。位置情報の未来は、もはや平面ではなく、この立体的な空間のなかにこそ広がっているのです。
