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2025年11月3日配信

屋内センシングとエリアマネジメントで世界を変える

登壇者:西尾信彦 
立命館大学 情報理工学部 教授

(所属や役職は配信当時の情報となります)

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西尾教授は、20年以上立命館大学にて屋内センシングの研究を行って来ました。2008年にGoogleに勤務した際のストリートビューの開発、その後日本に戻っての梅田地下街でのマッピング研究、そして屋内センシング技術の自動運転や防災システムへの活用についてお話をいただいています。UWB、フィンガープリントの自動更新の研究など、屋内位置情報に関わる方々は必聴のエピソードです。

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位置情報技術の最前線:屋内測位とエリアマネジメントの未来

 

位置情報データの利活用が進む中、特にGPSが利用しにくい屋内空間における技術開発と社会実装は重要な課題となっています。本記事では、立命館大学の西尾教授へのインタビューを基に、Googleでの経験から日本の地下街での挑戦、そして現在の研究テーマである防災システムや自動運転への応用、そして今後の展望について掘り下げます。

Googleでの経験から日本の地下街へ:屋内ストリートビューへの挑戦

 

西尾教授は、2007〜2008年頃にGoogleのストリートビュー立ち上げに関わり、そのインフラ構築に貢献されました。帰国後、屋外のストリートビューはあったものの、屋内での実現を目指し、特に迷宮と言われる大阪の地下街をフィールドとしました。当初Googleの協力を得られず、独自に撮影機材を準備し、大阪地下街株式会社の協力のもと、全域約1,500箇所もの屋内ストリートビューを制作・公開しました。


GPSが届かない場所での「測位」:屋内測位技術の進化

 

地下街というGPSが使えない空間での取り組みから、西尾教授は屋内測位(インドア・ポジショニング)の研究を本格的に開始します。研究初期には、蛍光灯の光でも稼働する特殊な太陽電池と低電力Wi-Fiチップを組み合わせたビーコンの代替システムを開発。その後、PDR(慣性航法)、Wi-Fi測位、そして近年ではUWB(ウルトラワイドバンド)など、電波、地磁気、気圧など様々なセンサーを活用した測位手法を研究しています。

特にUWB測位においては、高精度な反面、工場や倉庫など障害物の位置が変動する環境でのフィンガープリント(電波指紋)の自動更新が大きな課題となっており、この自動化が現在の主要な研究テーマの一つです。

エリアマネジメントと防災システム:命を守る位置情報の活用

 

地下街という人工物空間は、複数の事業者や鉄道会社が絡み合い、商業空間でありながら広域的なエリアマネジメントの難しさが伴います。特にナビゲーションにおいては、事業者間の競争や調整の難しさから、経路案内が複雑化する課題があります。

このような複雑な空間において、西尾教授の研究室は、防災を重要なアプリケーションと位置づけています。近年、水害・浸水被害が懸念される地下街において、センサーで浸水状況をリアルタイムに把握し、施設管理者が「どこから、どう止めるべきか」というアクションプランをシステムがリアルタイムで提示するB2Bシステムを提供しています。防災という「みんなが協調できる枠組み」から、位置情報技術の社会実装とエリアマネジメントの推進を図っています。

未来への展望:自動運転とスマートビルディング

 

最近では、研究の応用分野を広げ、自動運転や自律移動ロボットを用いたセンシングにも取り組んでいます。既存のセンサーが十分ではない建物(スマートでないビル)に対し、センサーを搭載したロボットが巡回することで、建物内の人流や状況を把握し、「スマートビルディング化」を可能にする研究を推進。将来的には、バリアフリーに左右されないドローンを屋内空間で活用することも視野に入れています。

まとめ

西尾教授の研究は、屋内測位技術の進化、複雑な都市インフラにおけるエリアマネジメントの推進、そしてそれを支える防災やスマートビルディング化への応用という、現代社会の重要な課題に対し、位置情報技術がどのように貢献できるかを示しています。特に、「防災」や「脱炭素」といった社会的な枠組みから位置情報技術を導入することで、技術の初期投資の壁を乗り越え、実社会での広範な利活用が期待されます。LBMAなどの協力体制を通じ、産学連携による一層の技術発展と社会実装が望まれます。

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