2025年9月1日配信
3Dスキャナを用いた水辺景観データ取得の実践 by近畿大学
登壇者:飯塚 公藤
近畿大学 総合社会学部総合社会学科
環境・まちづくり系専攻 教授
(所属や役職は配信当時の情報となります)
2025年7月14日に開催された、位置情報ビジネスセミナー@近畿大学
本セミナーでは、位置情報データを活用したビジネスの可能性について語られました。
各セミナーで語られた内容を数回に分け、ご紹介します。
『水辺景観』についての研究を実際されている飯塚研究室。なぜ環境・まちづくりの研究に水辺景観に着目するのか。3Dスキャナを活用し、船舶位置情報の取得、そのデータを分析することで、様々な「河川」を持つ街の課題を解決していく。その取組についてお話頂きました。また、本セミナーの趣旨である「位置情報データビジネスが激アツである」ことと、学生への熱いメッセージを是非お聞きください。
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水辺空間のデジタルアーカイブ:3Dスキャナーが拓く新境地
これまで陸上では、自動運転や様々なサービスのために3D点群データが盛んに取得されてきました。しかし、水辺空間は技術的な難しさから、十分なデータが整備されていませんでした。こうした課題を解決するため、特定の研究者は3Dスキャナーの導入に踏み切りました。このスキャナーは1秒間に64万ポイント、最大120メートル先のデータを取得できる高性能なものです。
この高精細な3Dスキャナーを活用することで、大阪・道頓堀や京都・鴨川といった日本の水辺を詳細にスキャンし、センチメートルレベルの精密な点群データを取得する実験が行われています。
この取り組みは、単に美しい景観を記録するだけではありません。以下の3つの点で、水辺空間の活用に革新をもたらす可能性を秘めています。
・歴史的景観の再現と分析: 昭和初期の古写真や絵画と最新の点群データを重ね合わせることで、当時の橋の高さや建物の形状などを精密に分析できます。過去と現在を比較することで、都市がどのように変化してきたかを科学的に明らかにすることが可能になります。
・防災・安全対策への貢献: 3Dスキャナーで取得した詳細な水辺のデータは、大雨や洪水時のリスクを予測するシミュレーションに役立ちます。また、船の安全な運航を支援するための基礎データとしても活用されます。
・デジタルツインの構築と観光活用: 船舶の3Dモデルと点群データを組み合わせることで、水上からの景観をシミュレーションするデジタルツインを構築できます。これにより、人々はVR(仮想現実)などで水辺の魅力を事前に体験したり、新たな観光コンテンツを創出したりできるようになります。
産学連携で進める水辺データ活用の未来
この革新的な取り組みは、研究者個人の力だけでなく、企業との連携によって大きく前進しています。特に、船舶の位置情報データを活用して水上の安全な運行を支援している企業との協業は、水辺データの活用に新たな視点をもたらしました。
水上では風や波の影響で船体が揺れるため、安定したデータ取得にはまだ課題が残されています。しかし、河川の特性を考慮し、水門で水位が安定している場所を選んだり、企業のアドバイスを受けたりすることで、これらの課題を克服しようとしています。
この研究は、まだ実験段階ではありますが、これまで見過ごされてきた水辺空間の価値を再発見し、安全性の向上、観光振興、そして防災といった様々な分野での応用を可能にする大きな可能性を秘めています。
まとめ
水辺の課題: これまでデータが十分に取得されていなかった水辺空間に注目。
技術の導入: 高性能な3Dスキャナーを用いて、水辺の景観をセンチメートル単位で精密にデータ化。
多角的な活用: 取得したデータは、歴史研究、防災、安全な船舶運行、そして観光プロモーションといった様々な分野で活用可能。
今後の展望: 歪みのないデータ取得方法の確立や、企業との連携によるデジタルツイン構築など、位置情報データの可能性をさらに探求していく。
位置情報データは、私たちの知らない水辺の姿を明らかにし、その価値を最大限に引き出すための重要なツールとなるでしょう。