2025年8月18日配信
意外と知られていない!?リアルタイム人流計測のご紹介 by国際航業
事業統括本部 ロケーションサービス部 プラットフォームG 人流解析チームリーダー 渡邊 剛史
(所属や役職は配信当時の情報となります)
2025年6月26日に開催された、LBMA Japan主催、「データがつなぐ地域の未来」をテーマに掲げた「上越アニバーサリーイヤー・位置情報利活用セミナー@上越妙高」。本セミナーでは、位置情報データを活用した地域活性化の可能性について深く掘り下げられました。
各セミナーで語られた内容を数回に分け、ご紹介します。
国際航業の人流解析チームに所属する渡邉氏が、リアルタイム人流計測の知られざる可能性と、その多様な活用事例について解説します。地図作成の老舗企業である国際航業が、どのように人流データを「価値ある情報」に変え、社会に貢献しているのか、その全貌に迫ります。
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国際航業が取り組む人流データ活用
国際航業は、航空測量や3D都市モデルの作成など、空間情報に関わる幅広い事業を展開しています。その中で、地表や人々の様子を捉える「センシング」技術の一環として、人流データの活用に取り組んでいます。
渡邉氏は、人流データそのものが事業となるのではなく、「何か達成したい目的があり、そのための調査手段の一つが人流データである」と強調します。国際航業の人流解析チームは、ブログウォッチャーのようなデータプロバイダーや、IoTセンサー技術を持つ企業と連携し、目的や条件に応じた最適な人流計測手法を提案しています。
例えば、イベント会場のような少人数を対象とした調査では、人流データは必ずしも最適解ではありません。大規模な人数を対象とし、かつプライバシーに配慮したデータ収集が人流データの強みです。
人流データの種類と適切な使い分け
人流データには大きく分けて以下の3種類があります。
①人流計測データ: カメラやセンサーで直接人数をカウントするデータ
②人流データ(スマートフォンベース): スマートフォンアプリなどから取得されるデータ(ブログウォッチャーなどが提供)
③携帯基地局データ: 携帯電話の基地局情報から得られるデータ
これらに加え、イベントの参加者リストなど、目的に応じて「正解を知っている人」に直接聞くといった手段も重要だと渡邉氏は指摘します。国土交通省からも人流データ活用に関するガイドラインが公開されており、国際航業もその執筆に携わるなど、人流データの適切な利用を啓発しています。
人流データの取得方法は、「人を直接計測する方法(カメラ、目視)」と「代替手段を用いて計測する方法(スマートフォンアプリ、携帯基地局など)」に大別されます。また、調査対象も「分かっている人(タグなどを持たせた特定対象)」と「不特定多数の人(スマートフォンデータなど)」があり、過去のデータかリアルタイムデータかといった取得時点も考慮して、最適な手法を選択することが重要です。
リアルタイム人流計測の最前線
国際航業は、特にリアルタイム人流計測に注力しており、主に以下の2つの手法を活用しています。
Wi-Fiパケットセンサー: スマートフォンが常時Wi-Fi信号を探している特性を利用し、Wi-Fiアクセスポイントに設置したセンサーでスマートフォンのMACアドレスを検知し、人数をカウント・行動を分析します。MACアドレスは個人情報ではないものの、取得後すぐにハッシュ化するなど、プライバシー保護にも徹底しています。鉄道会社などと連携し、駅構内での人の流れや混雑状況をリアルタイムで可視化し、提供しています。目視計測と組み合わせることで、センサーデータの精度を検証し、24時間365日の継続的なモニタリングを可能にしています。
高精度測位システム「Quuppa」: 特定の対象者の位置を高精度(約10センチメートル単位)で把握するシステムです。フィンランドの企業が開発したもので、電波の到達角度(AOA方式)を活用し、ロケーターとタグ(人が持つ端末)の組み合わせで位置を測定します。
・工場や倉庫での活用: 部品や資材にタグを取り付けることで、生産工程の進捗管理や、特定の場所にあるモノの位置をリアルタイムで把握し、作業効率の向上に貢献します。
・安全管理: 作業員にタグを持たせることで、夜間工場など危険な場所での転倒検知や、重機と人の接近を感知してアラートを発するなど、作業員の安全確保に役立てられています。
・スポーツ分野: 競馬の競走馬にタグを取り付け、走行位置を高精度に計測することで、レース分析などに活用されています。
・エンターテインメント: 博物館やアトラクションで、来場者の動きに合わせて演出を制御するなど、新たな体験価値の創出にも応用されています。
まとめ
リアルタイム人流計測は、単に「人がいる」というデータを提供するだけでなく、「危ない」といった情報に変換し、アラートとセットで活用されることで初めてその真価を発揮します。センサーデータは高精度である一方、人流データは統計的な推計が含まれるため、それぞれの特性を理解した活用が不可欠です。
渡邉氏は、「人流データは人混みのためだけのものではない」と語り、交通渋滞緩和、都市計画、災害対策、さらには大切な人やものを守るための安全管理、そしてエンターテインメントの創出など、その応用範囲は無限大であることを示しました。今後、日本全国の多様なデータが統合され、「人流警報」や「集客ブースト」といった形で、社会の課題解決や新たな価値創造に貢献していくことが期待されます。