2025年7月14日配信
広域交通の結節点・上越市の街づくり by上越市
上越市役所総合政策部総合政策課 課長 石黒 厚雄
効果的な観光戦略を打つには by妙高市
妙高市役所企画政策課 課長 岡田 豊
(所属や役職は配信当時の情報となります)
2024年6月26日に開催された、LBMA Japan主催、「データがつなぐ地域の未来」をテーマに掲げた「上越アニバーサリーイヤー・位置情報利活用セミナー@上越妙高」。本セミナーでは、位置情報データを活用した地域活性化の可能性について深く掘り下げられました。
各セミナーで語られた内容をご紹介します。
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<広域交通の結節点・上越市の街づくり by上越市>
上越市の概要と都市の特性
上越市は、人口約18万人弱、面積は東京都の約半分と広大な地域を持つ都市です。平成の大合併で14市町村が合併し、現在の姿となりました。
都市の特徴としては、北西日本エリアの拠点都市としての役割を担っている点が挙げられます。東京まで新幹線で2時間強、大阪へも日帰り圏内と、広域交通のアクセスが非常に良好です。港、高速道路、鉄道といった全ての交通インフラが揃っており、これらを活かしたまちづくりが進められています。
現在推進中の「第7次総合計画」では、「暮らしやすく希望あふれるまち」を将来都市像に掲げ、バックキャスティング方式で取り組みを進めています。特に以下の4つの重点テーマを掲げています。
・ヒューマン: 人づくり、シビックプライドの醸成、人の交流促進。
・コミュニティ: 28の地域自治区の力を活かした地域づくり。
・デジタル: デジタル技術を活用した社会変革。
・グリーン: 脱炭素社会の実現に向けた取り組み。
上越市は、広域交通の結節点としての優位性、脱炭素社会に向けたエネルギーのポテンシャル、3つの城跡や高田の雁木通りに代表される豊かな歴史文化、そして子育てしやすい環境など、多くの魅力を有しています。
上越市が直面する人口減少の課題
しかし、上越市も全国と同様に人口減少という大きな課題に直面しています。人口は右肩下がりに減少しており、高齢化率は上昇、若年人口は減少の一途をたどっています。現状、年間約2,500人の人口減少があり、これは毎年一つの地域自治区の人口が失われているのに匹敵します。
この人口減少の主な原因は、出生数と死亡数の差による「自然減」と、転入と転出の差による「社会減」の両方がマイナスであることです。特に、高校卒業後の若年層の転出超過が顕著であり、多くの若者が進学を機に市外へ流出しています。
一方で、上越市には上越教育大学、県立看護大学といった2つの大学と、情報・看護系の専門学校があり、合わせて400人規模の学生を市内に留めるポテンシャルがあります。これらの学校は「地域にとっての宝」と位置づけられ、若者の定着に向けた重要な拠点となっています。
地方創生に向けた上越市の戦略
厳しい財政状況(特に民生費の増加)の中で、上越市は地方創生への取り組みを強化しています。昨年度策定した新戦略では、以下の5つの視点をキーワードに掲げています。
・若者: 若者の定着・還流を促進。
・デジタル: デジタル技術を活用した地域課題解決。
・発信: 地域の魅力を積極的に発信。
・マッチング: 地域内外の人材や資源のマッチング。
・適応策: 人口減少社会に適応する社会システムの構築。
具体的な取り組みとしては、新幹線開業や合併20周年など、8つの節目が重なる「上越アニバーサリーイヤー」と称して、市民や市外へ向けて地域の魅力を発信しています。また、高校生によるプロモーション映像制作、若者活動活性化補助金制度、そしてUターン者の奨学金返還支援制度など、若者支援策にも力を入れています。
さらに、近年では企業との連携協定を積極的に締結し、官民連携によるまちづくりを推進しています。例えば、サツマイモブンジャパンが上越市の食材を使った担々麺を開発・販売したり、無印良品が世界最大級の店舗を出店し、地域の子どもたちとの協働で商品開発を行ったりと、民間企業の力を借りて様々なプロジェクトが進行中です。
地域NPOとの連携も活発で、「オラレジャ」と呼ばれるDX推進団体が各地域のDX化を支援し、異業種交流を促進。また、「5E協議会」は、上越妙高駅を拠点に新たなビジネス創出を目指す取り組みを進めており、多くの企業が上越妙高駅周辺に進出しています。
通年観光と広域交通のポテンシャル
市は、通年観光の推進にも力を入れており、高田城、春日山城、直江津の歴史・文化を拠点とした取り組みを進めています。特に春日山エリアの集客については、ビッグデータ分析を活用し、外部の専門企業の協力を得ながら検討を進めている段階です。
上越妙高駅の乗降客数は、コロナ禍で一時落ち込んだものの、現在では予測の4,000人を超える規模まで回復しています。注目すべきは、新幹線開業後、上越市から他県への通勤・通学者が増加している点です。これは、新幹線によって広域アクセスが向上し、「この街に暮らしながら、北陸・上越エリアの大きな都市の魅力を享受できる」という新たなライフスタイルが生まれたことを示唆しています。
人口減少社会への適応と未来への展望
石黒課長は、人口減少社会に適応するために、今後の人口動態(高齢者人口の増減、若年人口の減少、人口ピラミッドの壺型化)を深く考慮する必要があると強調します。
北陸新幹線沿線と上越新幹線沿線の主要都市の将来人口予測を比較すると、上越市は他の大規模都市に比べて人口減少率が高い傾向にあります。この状況下で、上越市が北陸新幹線エリアのポテンシャルを最大限に活かし、どのように持続可能なまちづくりを進めていくかが重要課題となります。
上越市は、総合政策、地方創生、人口ビジョンに基づき、これらの課題に果敢に取り組んでいく姿勢を示しています。
<効果的な観光戦略を打つには by妙高市>
妙高市の魅力と観光の現状
人口約2万9千人の妙高市は、少子高齢化と人口減少が進む中で、観光を重要な地域産業として位置づけています。特に宿泊業や飲食サービス業の企業数が多く、売上高においても観光関連産業が大きな割合を占めています。
妙高の最大の魅力は、なんといっても**「雪」です。上質なパウダースノーを求めて、オーストラリアをはじめとする多くの外国人スキーヤーが冬場に訪れます。また、7つの温泉地、5つの泉質、3つの湯色を持つ「妙高なごみの湯」に代表される豊かな自然と温泉も、観光客を惹きつける要素です。食の面では、米、山菜、野菜、郷土料理が親しまれ、YouTuberのHIKAKIN氏の出身地としても知られています。さらに、箱根駅伝出場校の多くが合宿を行う「合宿の里」**としても有名です。
コロナ禍を経て、昨年の入り込み客数は年間523万人と過去最高を記録し、観光売上額も248億円、域内循環額は42億円と、データを取り始めて以来の最高額を達成しました。しかし、冬場のスキー場入り込み客数はコロナ前の水準には戻っておらず、年間を通じた誘客戦略の強化が課題となっています。
観光振興における課題とデジタル活用の重要性
妙高市が持続可能な山岳リゾートを目指す上で、いくつかの重要な課題に直面しています。
年間を通じた誘客戦略の強化: 冬場に集中する観光客をグリーンシーズンにも呼び込むため、観光資源を磨き上げ、戦略的な誘客が必要です。
地域一体となった観光情報の発信: 素晴らしい観光資源がありながら、その魅力が国内外に十分に伝わっていない現状があります。地域全体でストーリーやブランドイメージを確立し、効果的な発信が求められます。
観光受け入れ体制・環境の整備: 既存の観光資源を周遊するための二次交通が不足しており、移動手段の充実は喫緊の課題です。
観光人材の育成と確保: 家族経営の事業者が多い中で、後継者不足が顕著であり、事業承継の問題解決が急務です。また、観光戦略を立案・実行できる専門人材や、増加する外国人観光客に対応できる人材の育成・確保も不可欠です。
産業活性化による国際競争力の強化: 魅力的な観光資源がありながらも、地域内で観光客がお金を落とす仕組みが十分に構築されていません。消費を促す機会や商品の創出が必要です。
これらの課題解決には、データ活用とデジタルマーケティングの強化が不可欠です。妙高市は、国内外のターゲットを明確化し、その誘客のためにデジタルマーケティング手法を確立する必要性を強く認識しています。具体的には、インバウンド客の出身国や地域、日本での移動経路、求め
るものといったデータを収集・分析する基盤の構築、そしてそれを活用できる人材の確保が急務です。
さらに、SNSを活用した情報発信、ターゲットに合わせたプロモーション、イベント情報の効果的な発信、そして観光事業者のDX推進による業務効率化支援も重要な施策です。チャットボットやAIを活用した観光案内、リモートワーク環境の整備など、受け入れ環境の充実も進められています。移動手段の課題解決に向けては、観光型MaaSやライドシェア、カーシェアなどの導入も検討されています。
妙高市は、大規模リゾート開発を追い風にしながら、観光の高付加価値化を図り、「誰もが年中、旅行を丸ごと楽しめる、持続可能なマウンテンリゾート」の実現を目指しています。データに基づいた戦略的な観光施策を推進することで、妙高の豊かな魅力を最大限に引き出し、地域経済の活性化と国際競争力の強化を図っていくでしょう。今後の妙高市の取り組みに注目です。