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2026年4月6日配信

インバウンド人流データの現在地と観光DXの可能性

 

登壇:甲斐沼大輔  ナビタイムジャパン(株)移動データ事業部 事業責任者

(所属や役職は配信当時の情報となります)

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ナビタイムジャパンの移動データ事業についてのエピソードです。NAVITIMEのGPSデータや経路検索データを活用し、観光、まちづくり、交通計画など幅広い分野を支えていること、そして訪日外国人向けサービス「Japan Travel by NAVITIME」が地方観光やオーバーツーリズム対策などへの展開。今後はインバウンドに加え、自転車や公共交通データ、AI活用も進めながら、さらに多様な領域で価値提供を広げていくお話をお聞きください。

 

 

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経路探索技術で世界の産業に奉仕する:ナビタイムジャパンの歩み

株式会社ナビタイムジャパンは、現在設立26年目を迎える日本を代表するナビゲーションサービス企業です。その根幹にあるのは、創業者の大西啓介氏と菊池新氏が大学の研究室時代から追求してきた経路探索技術です。当時、大西氏は車や徒歩のナビゲーションを、菊池氏は公共交通の乗り換え案内を研究しており、この二つの領域を掛け合わせることで出発地から目的地まで一気通貫で案内する「ドアtoドア」のナビゲーションを実現できるのではないかという着想から同社は誕生しました。

同社は「経路探索技術で世界の産業に奉仕する」という経営理念を掲げ、個人向けの「NAVITIME」や「乗換NAVITIME」のみならず、物流業界向けの支援ツールや観光バス向けの「工程表クラウド」など、移動に関するあらゆる分野でサービスを展開しています。通信技術が普及し始めたガラケー時代から、KDDI株式会社と連携してGPSを活用したナビゲーションを提供してきた歴史を持ち、移動データの蓄積と分析において国内屈指の知見を有しています。

移動データ事業部が推進する3つのデータ提供モデル

 

甲斐沼氏が率いる移動データ事業部では、自社サービスを通じて蓄積される膨大なGPSデータ、人流プローブデータ、そして経路検索データをビジネスに活用しています。同事業部では、主に以下の3つのモデルを通じて、自治体や企業へデータを提供しています。

一つ目は、Web上でセルフ分析が可能な「プロファイラーシリーズ」の提供です。ユーザーが直接ツールを操作し、必要な人流データを抽出・分析することで、自社の業務やマーケティングに即座に役立てることができます。二つ目は、特定の案件に応じたデータ連携やデータ提供です。これは直接的なデータ提供だけでなく、KDDI株式会社の「KDDI Location Analyzer(KLA)」や株式会社ブログウォッチャーなどのパートナー企業に対しても、ナビタイムジャパンが持つインバウンドデータ等を提供し、各社の強みを活かした分析ツールの一部として活用されています。

三つ目は、同社の専門的な知見に基づいたレポーティングサービスです。単にデータを提供するだけでなく、分析結果を詳細な報告書としてまとめることで、観光、街づくり、公共交通といった多岐にわたる分野の課題解決を具体的に支援しています。

日本サービス大賞内閣総理大臣賞の受賞とインバウンド戦略の深化

ナビタイムジャパンの大きな節目となったのが、2025年12月に訪日外国人向け観光ナビゲーションサービス「Japan Travel by NAVITIME」が「第5回日本サービス大賞」において内閣総理大臣賞を受賞したことです。

このサービスは、10年以上前から訪日外国人が日本を安全かつ安心して移動できる環境を整えるために提供されてきました。単なる経路案内にとどまらず、地方観光の振興やオーバーツーリズム対策といった社会課題への真摯な取り組みが高く評価されました。昨今、人流データの活用に対する社会的機運が高まっている中で、この受賞は同社のインバウンド関連事業の信頼性をさらに高める結果となり、自治体や企業からの問い合わせが急増する要因となっています。

 データに基づくオーバーツーリズムへの多角的アプローチと観光DX

現在、観光業界で最大の懸念事項となっているオーバーツーリズムについて、甲斐沼氏はデータを用いた冷静な現状把握と対策の必要性を強調しています。単に観光客数が多いことだけが問題なのではなく、交通網の容量不足や、特定の地点・時間に集中する人流の偏りなど、原因は地域ごとに多岐にわたります。

例えば京都などの人気観光地では、特定のルートに集中する人流を分散させるため、バスと鉄道を最適に使い分けるような案内を試験的に実施しています。本来、ナビゲーションサービスは最短・最速のルートを提示するものですが、地域全体の負荷を軽減するためにあえて「分散」を促す案内を行うことは、膨大なデータと高度なアルゴリズムを持つ同社ならではの試みです。

また、データの活用は課題解決だけでなく、観光客の行動やコンテキストを深く理解することで、より質の高い観光体験を提供し、結果として地域の収益向上につなげたいという前向きなニーズも増えています。これが、まさにデータが主導する観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質といえるでしょう。

AI活用の未来像と移動データのさらなる可能性

人流データのさらなる利活用に向けて、AI技術の導入も加速しています。ナビタイムジャパンでは、開発の効率化はもちろんのこと、プロダクトレベルでもAIの活用を開始しています。具体的には、インバウンドレポートにおいて複雑な人流データをAIで要約し、ユーザーが情報の意味を容易に理解できるような工夫を取り入れています。

今後は生成AIなどを活用し、得られたデータをどう解釈すべきかというハードルを下げることで、専門家以外の人々もデータの価値を容易に享受できる環境を目指しています。また、同社の強みはインバウンドデータのみに留まりません。自動車のプローブデータ、自転車のプローブデータ、さらには公共交通の時刻表や正確な運行データなど、多種多様な移動リソースを保有しています。今後は、これらの多角的なデータを掛け合わせることで、まだ十分な支援が行き届いていない業界や領域の課題を解決し、さらに洗練されたサービスを提供していく展望を描いています。

まとめ

 

今回の対談を通じて、ナビタイムジャパンが26年にわたって積み上げてきた経路探索技術の深みと、そこから派生する移動データの多面的な価値が浮き彫りとなりました。内閣総理大臣賞を受賞したインバウンド対策への取り組みは、まさにデータが社会課題を解決し、新たな価値を創造する具体的な成功事例といえます。オーバーツーリズム対策や地方創生といった複雑な課題に対し、単なる統計数値を超えた「移動のコンテキスト」を読み解く同社の姿勢は、今後の観光DXにおいて極めて重要です。AI技術の進化とともに、人流データがより身近で使いやすいものへと進化していく未来に、引き続き大きな期待が寄せられます。一般社団法人LBMA Japanとしても、こうした最先端の知見を広く共有し、位置情報データ利活用のさらなる促進と産業の発展に貢献してまいります。

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