2026年2月23日配信
「車で走るデータサイエンティスト」:EV長距離移動×現地体感×データ分析
登壇:
花井章剛 合同会社プルテウス代表社員
(所属や役職は配信当時の情報となります)
「自称・日本一車で走るデータサイエンティスト」として年間約6万kmをEVで走り、北海道と福岡の拠点を車で行き来。現地の空気感や人の動きまで体感しながら“本当にデータ通りか?“を確かめる分析スタイルに迫ります。
EV充電30分の仕事術、寒冷地での航続距離のリアル、テスラレンタカー事業とAPIによる位置情報・車両データ収集、観光行動や充電データの分析構想、自治体プロジェクト参画の展望まで語ります。
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「日本一車で走るデータサイエンティスト」が提唱する、現場体験と位置情報データの高度な融合
位置情報ビジネスの最前線では、膨大なデジタルデータからいかにして精度の高いインサイトを導き出すかが常に問われています。今回お招きした合同会社プルテウスの代表社員、花井章剛氏は、自らを「日本一車で走るデータサイエンティスト」と称し、年間約6万キロメートルもの距離を自ら運転して全国を巡る異色の分析者です。北海道から福岡まで、各地に点在する事業所を車で往来するその活動の裏側には、データサイエンスの精度を極限まで高めようとする独自の哲学があります。
花井氏が長距離移動に車を用いる最大の理由は、移動の過程で得られる「現地の空気感」の体感にあります。四季折々の変化、その土地特有の匂い、人々の細かな動きや熱量といった情報は、数値化されたログデータだけでは決して捉えきることができません。例えば、データ上で特定地点の通行量が多いと示されていても、実際に現地に立つことで、それがどのような属性の人々による、どのような目的を持った流れなのかを肌で感じることができます。この「現地に行く」というプロセスを経ることで、分析結果に対して「データ上はこうなっているが、実態と乖離していないか」という本質的な問いをプロジェクトマネージャーやクライアントに投げかけることが可能になるのです。デジタルな分析にアナログな実体験を掛け合わせることで、データに血を通わせる。これこそがプルテウスの提供するデータ分析支援の根幹にあります。
電気自動車(EV)がもたらす行動変容と、効率的なワークスタイルの確立
花井氏の広範な移動を支えているのは、テスラに代表される電気自動車(EV)です。EVでの長距離移動には、30分程度のこまめな充電が不可欠ですが、彼はこの時間を「制約」ではなく、非常に有効な「集中ワークタイム」として活用しています。車内というプライベートかつ静粛な空間で、充電中の30分間をタスクの消化や思考の整理に充てるサイクルは、データ分析やシステム開発といった高い集中力を要する業務において、理想的な頭の切り替えスイッチとなっています。
一方で、EV普及の課題としてよく挙げられる「航続距離」や「冬場のバッテリー性能」についても、花井氏はデータサイエンティストらしい冷静な視点で分析しています。特に北海道のような寒冷地では、夏季に比べてバッテリーの消費が早まるのは事実ですが、それはスマートフォンのバッテリー管理と同様の考え方で解決できると指摘します。0%から100%まで一気に充電しようとするのではなく、日常生活や移動の合間にこまめに充電する「行動変容」が定着すれば、多くのユーザーにとって航続距離への不安は解消されるはずです。メーカー独自のアプリに頼るだけでなく、より手軽に車両の状態を確認し、次のアクションを計画できる環境が整うことが、スマートなモビリティ社会の実現に向けた鍵となります。
北海道・安平町を拠点とするEVレンタカー事業と、API活用の次世代観光分析
プルテウスの事業の柱の一つに、北海道でのテスラ専門のレンタカー事業があります。この事業は、単なる車両の貸し出しにとどまらず、位置情報ビジネスの新たなモデルケースとしての側面を持っています。拠点を置く安平町(あびらちょう)は、苫小牧市などに隣接する交通の要所ですが、これまで道内にはテスラのレンタカーがほとんど存在しませんでした。花井氏は、EVを借りたい観光客のニーズに応えるべく、自ら土地を確保し、インフラを整備して事業を立ち上げました。
このレンタカー事業の最大の特徴は、利用者の許諾を得た上で、テスラのAPIを通じて詳細な位置情報や車両ログを収集・分析している点です。従来の観光分析では、事後のアンケート調査によって「どこを訪れたか」という断片的な情報を得ることが主流でした。しかし、走行ログを活用すれば、どのようなルートを通り、どこでどの程度の時間を過ごしたのかという、客観的で連続的な行動データが取得できます。
実際に事業を開始してみると、当初想定していた観光客だけでなく、安平町周辺や苫小牧などの近隣住民が、最新のEV性能を体感するために利用するという、データから見えてきた意外な需要もありました。こうしたリアルな走行データの蓄積は、今後の充電インフラの最適な配置計画や、混雑を避けた新しい観光ルートの提案など、エビデンスに基づいた地域活性化の施策に直結する可能性を秘めています。
スマートシティと脱炭素社会の実現に向けた、エビデンスベースの支援
花井氏とプルテウスが見据える未来は、こうした現場由来のデータと分析技術を、社会課題の解決へとつなげていくことにあります。今後の展望として、自治体が推進するスマートシティプロジェクトや、脱炭素(カーボンニュートラル)に向けた取り組みへの参画を積極的に進めていく計画です。
地方公共団体のプロジェクトにおいては、単にシステムを導入したりデータを集めたりするだけでなく、「そのデータからどのようなアクションを導き出すか」という意思決定の質が問われます。花井氏は、自らが公共交通機関に乗り込み、現地の人々の流れを確認するプロセスを惜しみません。収集されたログに偏りはないか、現地の課題を真に解決できる内容になっているかを、データサイエンティスト自らが現場で検証し続けることで、より精度の高いコンサルティングを提供しています。
現在は1台からスタートしているレンタカー事業も、今後台数を拡大し、より希少性の高い走行・充電データの集約を目指しています。有名な観光地だけでなく、その周辺にある潜在的な魅力を持つスポットへの人流をインサイトとして抽出することで、地域のポテンシャルを最大限に引き出す支援を行っていくとしています。現場の空気感を誰よりも知るデータサイエンティストの挑戦は、これからのデータ活用社会において、私たちが忘れてはならない「現実との対話」の重要性を提示しています。
まとめ
今回の対談を通じて、位置情報データの真の価値は、高度な分析アルゴリズムと、現場で得られる一次情報の融合にあることが明確になりました。合同会社プルテウスの花井章剛氏は、自らハンドルを握り全国の現場を体感することで、デジタルなログデータの背後にある「人々の暮らし」や「土地の文脈」を読み解いています。
特に、EVをデータ収集の動くプラットフォームとして活用するレンタカー事業は、従来の調査手法では到達できなかった精緻な行動分析を可能にします。ここで得られる航続距離や充電行動、人流のデータは、スマートシティの構築や脱炭素社会の実現、そして地域の観光振興における強力なエビデンスとなります。
「現場を歩き、データを信じる」という花井氏の姿勢は、データ分析が単なる机上の計算に終わらず、社会を動かす実効性を持つための不可欠な要素です。今後、プルテウスが自治体や企業との連携を深め、現場感覚に裏打ちされた新しいインサイトをどのように社会へ実装していくのか、その展開に大きな注目が集まります。
