2026年10月19日配信
「AI・データ活用は「同意」の先へ ― 万博から始まるVPIAと、社会に信頼されるデータ活用の新しいルール ―」
山下 大介氏 株式会社プライバシーテック
岸本 充生氏 大阪大学 社会技術共創研究センター
川島 邦之 一般社団法人LBMA Japan
(所属や役職は配信当時の情報となります)
AIや位置情報をはじめとするデータ活用が急速に進む一方、法令遵守や「同意」だけでは、生活者の不安や社会的な受容性まで十分に捉えることが難しくなっています。本セッションでは、大阪・関西万博で実践された、データ活用が生み出す「価値(Value)」と社会への「影響(Impact)」を多面的に評価するVPIAを取り上げます。大阪大学ELSIセンターとプライバシーテックが進める社会実装に向けた研究と、位置情報データの健全な利活用を業界横断で推進してきたLBMA Japanの取り組みを交え、企業・研究者・業界団体の3つの視点から、AI・データ活用を「止める」のではなく、社会から信頼される形で「進める」ための新しいガバナンスのあり方を議論します。
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AI・データ活用における「同意」の限界と情報漏洩リスクの現状
AIや位置情報データの利活用が加速する一方、相次ぐ情報漏洩事案やプライバシー問題への懸念が高まり、従来のデータガバナンスが限界を迎えています。 サービス利用時に提示されるプライバシーポリシーは複雑かつ長大化しており、印刷すると30ページ以上に及び、精読には年間約76時間も要するのが現状です。 その結果、過半数のユーザーが内容を読まずに形式的な同意ボタンを押しており、生活者に不真面目な了解を強いながら事業者の責任を一方的に押し付ける構造となっています。
法令遵守でも防げない「炎上」と企業の信頼失墜メカニズム
多くの企業が法務や弁護士のリーガルチェックを経てサービスを開始しても、社会的な批判を受けてサービス停止や撤回に追い込まれるケースが頻発しています。 法令遵守(リーガル)をクリアしても、生活者が心理的に抱く懸念や違和感(ソーシャル)とのギャップを埋められず、法律遵守だけでは炎上を防げません。 特にAIによる高度な分析やデータ統合が進む現代では、非個人情報であっても不適切な推計や利用により個人の尊厳を害するリスクが存在します。
エルシー(ELSI)と社会技術がもたらす責任あるイノベーション
法改正が技術革新に追いつかない時代には、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に対応したガバナンスとルールメイキングが不可欠となります。 大阪大学ELSIセンターなどは、単なる先端技術の開発にとどまらず、社会実装時の課題に対処するための「社会技術」を研究開発しています。 企業が迷った際の指針としてAI倫理原則やパーパス、エシカルな観点を組み込み、信頼される責任あるイノベーション(RRI)を追求することが求められます。
大阪・関西万博で実証された「VPIA」の評価フレームワークと実績
大阪・関西万博では、データの提供価値(Value)とプライバシーへの影響(Impact)を事前に多角評価する「VPIA」が開発・導入されました。 事業者が価値とリスク対策を示した報告書に対し、市民や若者などの第三者が理解しやすさを3段階で評価する画期的な仕組みが構築されました。 画面上の天秤マークから第三者評価を確認できる仕組みを導入し、専門家主導の善悪判定ではない、納得感を高める新しいガバナンスモデルが実証されました。
データフローの可視化と多様な人材の巻き込みによるリスク抽出
実務でのリスク評価には、データの取得・処理・出力をステークホルダー軸で整理した「データフロー図」の作成が効果的です。 データの流れを視覚化することで、潜在的な懸念や「なんとなく気持ち悪い」というモヤモヤした感覚を言語化し、リスクを高解像度で洗い出せます。 技術者だけでなく、広報や事務職、外部の市民など多角的な視点を持つ人材を巻き込むことで、漏洩発生時の説明責任を果たす土台が整います。
企業実務へのVPIA導入課題と過剰な業務負担を回避する工夫
VPIAを民間企業の日常業務に展開する上では、検証にかかる時間やコスト、現場への負担増が大きな障壁となります。 すべての案件に一律の厳格評価を行うと業務が破綻するため、施策のリスク水準に応じた事前スクリーニングと評価レベルの仕分けが重要です。 プライバシーテックやLBMA Japan、アカデミアが連携し、企業の理念に応じたカスタマイズやAI技術を活用した効率的な評価支援の検討が進んでいます。
まとめ
AI時代におけるデータ利活用は、形式的な「同意」や法令遵守のみに頼る段階を過ぎ、社会的受容性と信頼を獲得する新しいガバナンスへの転換が必要です。 万博で実証されたVPIAは、価値と影響を可視化し、市民視点を取り入れることで、事業者の説明責任と社会的な受容性を両立させる強力なフレームワークです。 データを過剰に恐れて停止させるのではなく、多様な視点によるリスク洗い出しとAI支援ツールを組み合わせ、社会から信頼されるデータ活用の実現が期待されます。
