2025年7月28日配信
地図ってこんなに使えるんだ!ゼンリン流・位置情報の活かし方 byゼンリンデータコム
事業統括本部 サービス企画室 室長 金城 陽平
(所属や役職は配信当時の情報となります)
2024年6月26日に開催された、LBMA Japan主催、「データがつなぐ地域の未来」をテーマに掲げた「上越アニバーサリーイヤー・位置情報利活用セミナー@上越妙高」。本セミナーでは、位置情報データを活用した地域活性化の可能性について深く掘り下げられました。
各セミナーで語られた内容をご紹介します。
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ゼンリングループの役割とゼンリンデータコムの独自性
ゼンリングループは、一軒一軒の調査に基づく詳細な地図データを収集する「地図メーカー」としての役割を担っています。一方、ゼンリンデータコムは、ゼンリンが収集したデータと、様々なサードパーティのデータを組み合わせ、地図描画エンジン、ナビゲーション用のルート検索エンジン、人流データ分析エンジンなどを開発し、各種ソリューションやサービスパッケージとして提供しています。
金城氏は、2011年の入社以来、法人向けの位置情報ソリューションや人流分析の企画・営業に長らく携わってきました。当時はスマートフォンの位置情報活用がまだ黎明期で、プライバシー問題など困難な時期もあったものの、現在では位置情報が社会に広く受け入れられ、便利なツールとして活用されていることに喜びを感じていると語ります。
近年は、ゼンリングループ全体で次世代の地図配信基盤構築を推進しており、自動運転、モビリティデータ、IoT、ドローンといった次世代技術に活用できるような基盤づくりに取り組んでいます。その中で、金城氏は「地図情報とAI」をキーワードに、新しいサービスの企画を進めています。
1.AIが地図制作を変革する:デザイン地図AI
ゼンリンデータコムの新たな取り組みの一つが、「デザイン地図AI」です。これは、チャットAIに指示するだけで、思い通りの地図を簡単に作成できることを目指しています。
ゼンリンが保有する地図データは、4000以上のレイヤーに細かく分類され、膨大な地物データが含まれています。これまで、地図のデザインは専門のデザイナーが行ってきましたが、デザイン地図AIを活用することで、例えば「白黒パーカーのようなイメージの地図にして」といった曖昧な指示でもAIが解釈し、多様なデザインの地図を生成できるようになります。
デモサイトでは、建物の色を変えたり、特定の建物名だけを表示させたり、シンプルで分かりやすい案内地図を生成したりする様子が公開されています。これにより、地図の専門知識がない人でも、イベントマップやパンフレット用の地図などを手軽に作成できるようになることが期待されます。
また、人流データを可視化する際にも、背景地図のデザインは重要です。例えば、ナイトタイムエコノミーをテーマにした新宿駅周辺の人流データ可視化では、夜の雰囲気に合わせたデザインの地図に、必要な娯楽施設だけを強調して表示することで、データの理解度が向上するといいます。
2.人流データと地図の新たな活用:隠れた観光資源の発見
2つ目の取り組みは、人流データと組み合わせた「神社の比較マップ」です。これは、人流データにスコア付けをすることで、「隠れた観光資源」を発掘しようという試みです。
日本全国には約21万件もの神社仏閣が存在しますが、ゼンリンの地図データから、それらの位置情報を全て抽出し、人流データと組み合わせることで、多くの人が集まる有名な神社だけでなく、隠れた小さな祠のような場所でも、意外な人流があることが可視化されます。
特に訪日外国人観光客をターゲットに、SNSで話題になったり、日本人が気づかないような「街の祠」が魅力的だと感じられたりするケースに着目。観光客が有名な観光スポットの合間の時間を利用して立ち寄れるような、新たな周遊ルートを提案することで、観光消費額の増加にも繋がるのではないかと考えています。この取り組みはすでにデモサイトとして公開され、日本経済新聞に取り上げられるなど、注目を集めています。
3.過去と未来をつなぐ地図:時系列変化の可視化
3つ目は、「時系列変化マップ」です。ゼンリンの次世代地図配信基盤には、過去の地図情報が網羅的に取り込まれています。1995年以降のデータはデジタル化・データベース化されており、過去の地図と比較することで、街の変遷を詳細に確認できます。
例えば、銭湯の店舗数の推移を地図上で追跡する事例では、2005年に2769件あった銭湯が、スマートフォンの普及やコロナ禍の影響を受け、2020年には734件まで減少している様子が視覚的に示されました。
過去の施設データや建物情報を重ね合わせることで、地域開発の選定やまちづくり戦略、ベストミックス計画などの意思決定に役立てることができます。
車のプローブデータ活用と詳細な地図コンテンツ提供
ゼンリングループでは、車のプローブデータも扱っており、約420万台のホンダ車のデータを活用して、交通分析、渋滞緩和、工事規制時の迂回路選定など、車両に特化した分析を提供しています。スマートフォンの位置情報とは異なり、道路単位での詳細な通行量や平均速度を把握できるのが特徴です。
また、ゼンリンは、建物一つ一つの詳細な情報(築年数、階数、テナント情報、出入口情報など)や、正確な到着地点情報など、豊富な地図コンテンツを整備しています。これらのデータは、APIとして提供され、システム開発における部品として利用することが可能です。
まとめ
ゼンリンデータコムは、長年培ってきた地図制作のノウハウと、最新のAI技術、そして多様な人流データを組み合わせることで、デザイン地図AI、隠れた観光資源の発掘、時系列変化の可視化といった新たな価値創造に取り組んでいます。これらの取り組みは、まだ企画段階のものも多いですが、社会実装に向けて自治体や民間企業との連携を模索しています。
ゼンリンデータコムのウェブサイトでは、今回紹介された一部のデモサイトが無償で公開されており、地図とデータの新たな可能性を体験できるようになっています。